AIが選んだ薬を、マウスの脳へ。3つのAIで「薬も場所も違った」

2026年11月1日|読了目安:約5分

同じ候補を渡したのに、選んだ薬も、注入する脳の場所も違った。バイオ企業Exin TherapeuticsのCEOが、3つのAIによるマウスへの薬剤注入実験を報告しました。AIは案を出すだけでなく、装置を動かして注入にも関わったといいます。

切開・開頭・縫合は人間の獣医師が担当し、全工程を監督しました。AIが単独で手術したわけではなく、発作を減らせたかもまだ分かっていません。[CEOの実験報告]

3つのAIから異なる案がマウスの脳へ向かい、獣医師が監督する様子を象徴したAI生成イラスト。実際の実験風景ではありません。
AI生成のイメージイラスト。実際の動物・実験装置・治療結果を再現したものではありません。

渡されたのは、19の候補と「発作を減らす」という目標

CEOのGabriel Ocana-Santero氏は10月28日に最初の実験を投稿し、10月31日朝(日本時間)に3モデルの続報を公表しました。対象は、てんかんの症状を再現した実験用マウスです。

登場するのは、Claude Sonnet 5、GPT-6.1 Sol、Grok 4.7。CEOによると、3モデルには同じ19種類の遺伝子治療候補と、「てんかん発作を減らす」という目標を与えました。候補は、治療に使う遺伝子を細胞へ届ける「ベクター」です。

各AIは注入する位置、量、速度、待ち時間を決め、カメラ画像を見ながら電動の注入装置を操作したといいます。それぞれ別のマウス1匹で試した実験です。

発作の「始まり」を狙うか、「広がり」を防ぐか

なぜ選択が分かれたのでしょうか。CEOが紹介した説明を読むと、3モデルは同じ発作に対し、違う部分に働きかけようとしていました。

Claudeは、発作が始まる場所を狙いました。選んだのは「嗅内皮質(きゅうないひしつ)」。この病態モデルで発作の起点になると報告されている場所で、神経の興奮を抑える信号を強める案です。

GPTは、抑える仕組みを立て直そうとしました。選んだ場所は「海馬」。細胞内外のイオンの通り道に関わる仕組みを使い、すでにある抑制が効く状態を取り戻す狙いだったといいます。

Grokは、発作の広がりを防ごうとしました。「体性感覚皮質」で2種類の遺伝子治療を組み合わせ、神経の興奮を抑える働きを強める案でした。[3モデルの選択と理由]

同じ「発作を減らす」でも、どこに手を打つかが違う。ここが今回の面白い点です。ただし、これらは各AIが示した治療の仮説です。

「進めない」と判断したAIもいた

実験を引き受けなかったAIもいました。初報によると、Claude Opus 5.5は生物実験だと認識すると拒否。別のOpus 5は、水と方眼紙での予行演習を終えた後、生体での操作に入る段階で止まったそうです。

CEOが掲載したOpus 5の応答は、出力が途中で止まれば、脳に針を入れたままになりかねない、という趣旨でした。最後までできない可能性を考え、始めない判断を示したのです。初報の注入を進めたのはSonnet 5でした。

引き受けた3モデルにも、判断が分かれる場面がありました。続報では、Claudeは装置の位置情報の不整合を見つけて移動を拒否。GPTは出血の可能性を見つけ、獣医師に判断を委ねたといいます。

Grokは、人間の誤操作で装置が位置を見失った際、すでに注入済みだと認識。手順を終えるためだけに、もう一度脳に針を入れることを拒んだそうです。

こうした判断も、人間の安全管理の中で行われました。会社側は、取り返しのつかない操作には獣医師の承認を必要とし、移動距離・注入量の上限や、モーターの電源を切る緊急停止ボタンを用意したと説明しています。

マウスは回復中。治療が効いたかは、これから

CEOによると、3匹は回復中で、今後数週間にわたり行動と脳の活動を観察します。回復していることと、てんかん発作が減ったことは別です。

今回は各モデルにつき1匹で、動物も装置の不具合も異なります。CEO自身も、正式な性能比較ではないと説明しています。[回復状況と評価の限界]

本記事の確認時点では、この注入実験の治療効果を検証した査読済み論文は確認できませんでした。主な根拠はCEOの公開報告であり、編集部が実験や回復を独自に確認したものではありません。

同じ候補を渡されても、3つのAIが出した答えは違いました。では、実際に発作を減らせるのはどの案なのでしょうか。

AIはそれぞれの選択に理由を示しました。次に確かめるのは、その理由が、生きた体でも通用するかどうかです。

AIが実験の候補づくりを担った研究には、Claudeが設計した分子候補のうち、17件が毒素への結合基準を満たした研究もあります。こちらも、毒素を中和する効果までは確かめられていません。

出典・確認情報

CEOの初報(10月28日)/3モデルの続報(日本時間10月31日)/Exin Therapeutics公式サイト。取材報道:WIRED(10月31日)。

最終確認:2026年11月1日(日本時間)。モデル名・実験内容・回復状況は発表者の説明に基づきます。人間での治療成績を示すニュースではありません。画像はAI生成のイメージです。

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